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六
「あれなら、私の方からいゝやうにしときます」
答へながら、彼は紅くなつていた。
「これを御大典のお祝ひ日に着るんですつて」
「ね、お母あさん。これ、こんなに汚いでせう。もう少し……たいんですけど。……でせうねえ」
「いや、――わしはそんなこたあ嫌ひだ」
入浴は快適だったが、あがる時が苦痛であった。越して来たのが冬だから、湯から上ると、ガタガタふるえる。とりわけ寒い日は、全身をふく余裕がなく、夢中で着物をひッかぶっていたりした。
一わたり済むと、練吉は最後にもう一度注意深く病人の顔をぢつと眺め、
「ズブリと相手の眼の中へさしこんでしまつたさうでね。――親方すみません、とあやまつたと云ふんだが、どうもね、――何しろ他の人の見てる前でやるんだから、たまつたもんぢやない」
富田は房一に声をかけて彼のために席を明けながら、つづけて
「お髯がなくなりましたわ」
「はア」
相沢は満足さうに馬の首を叩きつゞけていた。房一は思はず微笑した。彼にはこの時の相沢がひどく愛嬌あるものとも見えたからである。けれども、房一自身の顔にさつきから現れているものも、ちやうど子供が好きな物を前にしたときに見せるあの熱心さと同じ表情だつた。